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5. 教理(1)ーー縁起(十二支縁起)

 

 仏教の根本教義は、縁起説である。原始仏典の古い層には、一定の形式をもった縁起説は現れない。苦しみを生み出す因果の系列について、さまざまな項目を立てた説が現れる。しかし、漠然とした縁起説はじょじょに整備されていき、形式化された。そして、完成されたのが十二の項目からなる十二支縁起(十二因縁)の説で、古来仏教の根本教義として尊重されてきたものである。1)

 

 十二の項目とは、①根源的な無知(無明)、②生活行為(行)、③認識作用(識)、 ④心と物(名色)、⑤六つの感覚機能(六処)、⑥対象との接触(触)、⑦感受(受)、⑧本能的な欲望(渇愛)、⑨執着(取)、⑩生存(有)、⑪誕生(生)、 ⑫老いと死(老死)である。

 

 十二番目の項目「老いと死」には「愁い(愁)、悲しみ(悲)、苦しみ(苦)、憂い(憂)、悩み(悩)」が加えられることがある。「老いと死」が苦しみの代表とされているのである。

 

 これによって、「老いと死」に象徴されるこの世の苦しみがいかにして生ずるかが明らかにされる。それと同時に、その根源を「根源的な無知」からはじめて順に滅すれば、苦しみが消滅できることを説き示している。

 

 ところで、十二縁起を説く、初めの部分に「これあればかれあり。これ生ずればかれ生ず。これなければかれなし。これ滅すればかれ滅す。」という定型表現が加えられることがある。 これは、遅れて成立したものであることが定説となっているが、ここには明らかに縁起が一般化され、現象世界の法則性と見なされる傾向が認められる。現象するものは、すべてもろもろの原因・条件が集まって現れてくるという見方である。現象するものが他のものへの依存関係において成立するという見方は無我説に影響を及ぼし、さらに後の空の思想の論理的な根拠となった。

 

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 1) 藤田宏達「原始仏教における因果思想」(仏教思想研究会編『因果』平楽寺書店、1978年)85頁以下。

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